リアルホラー;「S県K駅男性洋式トイレ」③

そんなこんなで、私は、最悪の事態、すなわち、25にしてお漏らし、というもの、は避けることが出来た。

 「まあ、日頃の行いがよかった、ということか。」

とりあえず、自分を褒めながら、何度も、大体6回位?、水を流しつつ、用をたした。
ちなみに、何度も水を流す、というのは、私の過去の苦い経験からの反省に基づく習慣なのだが、それはまた、別の話なので、ここでは触れない。

 「さて、と、そろそろ出ても大丈夫だろう。」

約30分の後、お腹も落ち着いてきたため、そろそろトイレから出ることにした。

トイレットペーパーが備え付けられている右手の壁に視線を向けつつ、手を伸ばす。

 「??????」

そこにあったのは、かつてソコにトイレットペーパーをセットするホルダーが備え付けられていたことを示す糸鋸の様なモノで切断されたホルダーを壁に固定していたと思われるボルトのアシ(?)×3のみだった。

 「何じゃこりゃあ!!??」

大昔の刑事ドラマで死ぬ寸前に致命的攻撃を受けた刑事のセリフ、うろ覚えなのでおそらくは正確ではない、を口にしてみたが、意味はなかった。
とはいえ、実は、そんなに混乱しているわけでも無かったので、
 
 「きっとこれはその辺にいる下流社会に嵌ったかわいそうだと同情を寄せられることもある不良な若者がトイレットペーパーのホルダーを糸鋸かなんかで切断して持ち出すという反社会的なプチテロモドキに趨ったのだろうははははは迷惑なものですなあまったく。」

と空虚に余裕ぶって、こういう場合は個室のどこかに呼びのトイレットペーパーがあるものだ、と個室内を体をひねって見回す。
 
すると、果たして、無かった。

 「ほほう。そう来ましたか。意外な一手ではありましたなあ。」

とりあえず、封じ手が全く予想外の一手であった場合の将棋指し(永世十段)をイメージしてみたが、こちらもやはり意味がなかった。
しかも、似ていなかったし、意味不明だった。

 「ふむ。そういえば、あの小説は何所まで読んだのだったっけ?」

今読んでいる小説、ミステリー、をどこまで読んでいたのだったかを、ストーリー展開を整理しながら、思い出してみた。
もちろん、これも意味がなかった。
しかも、おそらく犯人がわかってしまったっぽいので、ある意味ではマイナス効果だった。世の中には気が付かない方が楽しめること、というのは確かに存在しているのである。

 「小説のプロット、というのは、その最たるものである。それは、気が付いてはイケナイものなのだ。(完)」

とりあえず、現実逃避な独り言を「(完)」させて、前向きに自らの置かれた状況に対する打開策を検討することにする。

 解決策①:手持ちのティッシュペーパーで間に合わせる

というのを、思いついた。が、ポケットのティッシュ(「トイレには流さないで下さい」と明示されているもの)は4枚しか残っていなかったので、足りなかった。

 解決策②:手や下着など、紙以外のものでふく。

というのは、汚したくないものを汚すことになる上、そもそも、自分の大事な何か、おそらくはプライド辺り、を失うことになる、という意味で、論外だった。

 解決策③:ふくのを諦めて出る。

というのも、同様の理由で却下だった。

 「さて、というわけで、自力で解決するのは不可能、ということがわかっただけであった。」

とりあえず、人ごとのように言ってみたが、人ごとではなかった。

 「ちくしょー!うおう!!どうしろってんだよー!!!」

耳を澄ませて男性トイレ内には、自分しかいないのを確認してから、小声で叫んでみた。

だが、言葉というのはコミュニケーションツールなのだから、相手がいなければ、何も起こらない、というのは、自明だった。

 ダン。ダン。ダン。

ノックに毛が生えた程度の強さで扉を殴ってみた。

しかし、ノック程度の強さでは、扉が壊れる、といった変化は望めるはずがなかった。
そもそも、扉が壊れても、この場合、何の解決にもならないどころか、帰って困ってしまう。しかも、それほど強く殴ったわけではないのだが、手の皮膚が破れて、血が出てしまった。

 「ごほん。この程度で皮膚が破れるなんて、コラーゲンとかが不足しているのかな?」

ずきんずきん、といたむ右手。
トイレのドアを流れ落ちる、どす黒い酸化した血。

何だか、とても不安定になった。

・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。

 この時点で、トイレに入ってから1時間半。どうして、紙がないのか。どうすれば、いいのか。誰に、どう言えばいいのか。そんなことは、もうとっくにわかっていた。

 「何を気が付かないフリをしている? いいかげんにしておくことだ。」と自分に心の中で言い聞かせつつ、しばし、人が来るのを、待つ。

以下、早回しな早回し。

 「すみませーん。そこのあなた。駅員さんを呼んで下さい。」

 「え?あ、はい。わたしですか?わかりました。駅員を呼んでくれば良いんですね?」

 「はい。そうです。お願いします。」

 「駅員ですが、どうなさいました?大丈夫ですか!?」

 「すみません。トイレットペーパーがないのですが。」

 「ああ。トイレットペーパーは、経費節約、ということで、設置してないんですよ。」

 「そうですか。」

 「もしかして、確かめずに入っちゃったの?」

 「はい。そうです。」

 「困ったねえ。」

 「はい、困ってます。」

 「水に流せるティッシュペーパーの自販機がありますけど、どうします?」

 「駅員の皆様って、もちろん駅で用をたされてるんでしょうけど、トイレットペーパー、お使いになってますよね?」

 「・・・・・・。一寸待っていて下さいね。持ってきますから。(怒)」

その10分後。トイレットペーパー、が投げ込まれた。
その20分後、私は個室を出ることが出来た。

長く座っていたせいで痺れた脚を引きずりつつ駅のエスカレーターを乗り継いで、外に出る。

太陽は、眩しくなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以上が、私が「S県K駅男性洋式トイレ」で体験した全て、である。

私は、その時そこにそういう恐怖を感じた。

というだけの、ただそれだけの事だった。

 * 若干ながら演出も入れてみましたが、うまくオチませんでした(汗)
 ** 2/24以下、微妙に加筆。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、私の体験談は、すでに終わっている。
そこには、まはや、続きはあり得ない。

しかし、ここで問題になるのは、希望的観測に拠れば、K駅のトイレでは、同様な事故が多発しているはずである、ということである。

すなわち、それらの事故というのは、繰り返し発生し続けることにより、観察及び伝達のされようによっては、何らかの「怪談めいたもの」を誕生させることになるのではないか、ということである。

曰く、K駅の男性トイレに入ると、時折、洋式トイレから擦れた助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
曰く、K駅の洋式トイレに入ってしばらく便座に座っていると、ドアに血がにじんでくる。
曰く、K駅の男性トイレでは、ポルターガイスト、ドアを叩く音が主、が発生することがある。
曰く、K駅の男性トイレにトイレットペーパーが無いのは、いつも○○くん(お化けの名前)が食べてしまうからだ。
曰く、K駅の男性トイレには、足を引きずった地縛霊が住み着いていて、時折、人の片足を奪い取って、自分に付けようとする。
うんぬんかんぬん。

・・・・・・というのは、やはり、ムリがあった。

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この記事へのコメント

いななき
2006年04月28日 09:19
御自身もおっしゃっているように、引っ張ってるワリにはオチが弱かったね。

でも、その途中までがオモシロイからOK!君らしくて楽しかったです。
副団長
2006年04月28日 12:02
腹痛は、な。厳しいよな。
そりゃあ紙があるかないか確認してる暇なんか無いよな。
大体入り口に自販機があるトイレは無いもんだというのは経験として学んだけどね。
のり
2006年04月28日 13:06
ふむ。おつかれ!

痛いときは苦しいよ。余裕無いし。
2006年04月29日 01:29
>いななきクン
自分らしい。確かに、自分らしい?・・・。自分らしい、のかな??あれれ???自分らしさ、ってどんな感じだったっけ????(by自分を見失っている人)

>副団長さん
もう経験済みでしたか。
紙が設置されていない、というのは、経営難のS高速鉄道であればこそ、なのかと思ったのですが、そうでもないんですね(プチ驚)

>のりさん
はい、疲れました。
洋式は、和式よりは長時間いられますが、長時間座り続けると、結構、色々と体に負担がかかってヤバくなってきますよ。特に、××(-自主規制)辺りが(汗)

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